ベクトルの和は力の合成:斜面の問題を数学で読む

目次

力の合成とつり合い

物体にはたらく力 F1⃗, F2⃗\vec{F_1},\ \vec{F_2} の合力は、ベクトルの和

F⃗=F1⃗+F2⃗ \vec{F}=\vec{F_1}+\vec{F_2}

である。成分で書くと、F1⃗=(x1, y1), F2⃗=(x2, y2)\vec{F_1}=(x_1,\ y_1),\ \vec{F_2}=(x_2,\ y_2) のとき F⃗=(x1+x2, y1+y2)\vec{F}=(x_1+x_2,\ y_1+y_2)。 はたらく力の和が 0⃗\vec{0} のとき、力はつり合っている。

この記事の要点

  • 力は「大きさ」と「向き」をもつので、矢印=ベクトルで表せる。合力はベクトルの和
  • 斜面上の重力は、斜面に平行な mgsin⁡θmg\sin\theta と垂直な mgcos⁡θmg\cos\theta に分解できる
  • 力がする仕事は、力と移動のベクトルの内積で表せる

数学Cで習うベクトルは、物理では毎日のように使われています。特に「力」は、ベクトルの考え方がそのまま当てはまる代表例です。この記事では、物理基礎の力の合成・分解と斜面の問題を、ベクトルの計算として読み直します。

力はベクトルで表せる

力には「どれくらいの強さか(大きさ)」と「どちらへ引くか(向き)」があります。たとえば、東向きに 33 N、北向きに 44 N の力で同時に引くと、物体は東でも北でもない、斜めの向きに引かれます。

東向きを xx 軸、北向きを yy 軸にとると、2つの力は

F1⃗=(3, 0),F2⃗=(0, 4) \vec{F_1}=(3,\ 0),\qquad \vec{F_2}=(0,\ 4)

と表せます。合力はベクトルの和なので

F⃗=F1⃗+F2⃗=(3, 4) \vec{F}=\vec{F_1}+\vec{F_2}=(3,\ 4)

その大きさは

∣F⃗∣=32+42=5 [N] |\vec{F}|=\sqrt{3^2+4^2}=5\ \text{[N]}

です。物理の「力の平行四辺形」は、数学のベクトルの和と同じもの です。

斜面の問題をベクトルで読む

傾きの角が θ\theta の、なめらかな(摩擦のない)斜面に、質量 mm の物体を置きます。物体には、真下向きの重力 mgmg と、斜面から垂直に押し返す垂直抗力 NN がはたらきます(gg は重力加速度)。

重力を、斜面に平行な成分と垂直な成分に分ける

1. 座標軸を斜面に合わせる

斜面に沿って下向きに xx 軸、斜面に垂直で外向きに yy 軸をとります。軸を斜めにとっても、ベクトルの和の計算はまったく同じです。

2. 重力を成分に分ける

斜面は水平から θ\theta だけ傾いているので、斜面に垂直な線も、鉛直な線から θ\theta だけ傾いています。したがって図のように、重力(鉛直下向き)と斜面の垂線のなす角は θ\theta です。重力を xx 成分と yy 成分に分けると

重力=(mgsin⁡θ, −mgcos⁡θ) \text{重力}=(mg\sin\theta,\ -mg\cos\theta)

となります。大きさを確かめると、(mgsin⁡θ)2+(mgcos⁡θ)2=mgsin⁡2θ+cos⁡2θ=mg\sqrt{(mg\sin\theta)^2+(mg\cos\theta)^2}=mg\sqrt{\sin^2\theta+\cos^2\theta}=mg で、もとの重力の大きさに一致します。

3. 垂直な方向のつり合い

物体は斜面から浮き上がらず、めり込みもしないので、yy 方向の力はつり合っています。垂直抗力は N⃗=(0, N)\vec{N}=(0,\ N) なので、yy 成分の和が 00 になる条件から

N−mgcos⁡θ=0よりN=mgcos⁡θ N-mg\cos\theta=0\quad\text{より}\quad N=mg\cos\theta

4. 斜面に沿った方向の運動

xx 方向には mgsin⁡θmg\sin\theta だけが残ります。運動方程式 ma=Fma=F にあてはめると

ma=mgsin⁡θよりa=gsin⁡θ ma=mg\sin\theta\quad\text{より}\quad a=g\sin\theta

斜面を滑り下りる加速度は、質量によらず gsin⁡θg\sin\theta です。θ=90∘\theta=90^\circ にすると a=ga=g となり、自由落下に一致します。

数値で確かめる:m=2m=2 kg、θ=30∘\theta=30^\circ、g=9.8g=9.8 m/s² とすると

mgsin⁡θ=2×9.8×12=9.8 [N]N=mgcos⁡θ=2×9.8×32=9.83≒17.0 [N]a=gsin⁡θ=9.8×12=4.9 [m/s2] \begin{aligned} mg\sin\theta&=2\times 9.8\times\frac{1}{2}=9.8\ \text{[N]}\\[4pt] N=mg\cos\theta&=2\times 9.8\times\frac{\sqrt{3}}{2}=9.8\sqrt{3}\fallingdotseq 17.0\ \text{[N]}\\[4pt] a=g\sin\theta&=9.8\times\frac{1}{2}=4.9\ \text{[m/s}^2\text{]} \end{aligned}

仕事はベクトルの内積

物理では、力 F⃗\vec{F} を受けながら物体が s⃗\vec{s} だけ動いたとき、力がした仕事 WW を

W=∣F⃗∣ ∣s⃗∣cos⁡φ W=|\vec{F}|\,|\vec{s}|\cos\varphi

と定めます(φ\varphi は力と移動の向きのなす角)。これは数学Cの内積 F⃗⋅s⃗\vec{F}\cdot\vec{s} そのものです。

斜面を長さ LL だけ滑り下りるとき、重力と移動の向きのなす角は 90∘−θ90^\circ-\theta なので、重力がする仕事は

W=mg⋅L⋅cos⁡(90∘−θ)=mgLsin⁡θ \begin{aligned} W&=mg\cdot L\cdot\cos(90^\circ-\theta)\\[4pt] &=mgL\sin\theta \end{aligned}

Lsin⁡θL\sin\theta は、滑り下りた間に下がった高さ hh です。つまり W=mghW=mgh となり、斜面を通っても、真下に hh だけ落ちても、重力がする仕事は同じだと分かります。垂直抗力は移動の向きと垂直(cos⁡90∘=0\cos 90^\circ=0)なので、仕事をしません。

この記事のまとめ

  • 力はベクトルで表せ、合力はベクトルの和。成分ごとに足せばよい。
  • 斜面では軸を斜面に合わせ、重力を mgsin⁡θmg\sin\theta と mgcos⁡θmg\cos\theta に分ける。加速度は gsin⁡θg\sin\theta。
  • 仕事は力と移動の内積。斜面を下りても、重力の仕事は mghmgh。

位置・速度・加速度と微分の関係は、微分は速度、2回微分は加速度で紹介しています。