テイラー展開を高校数学から:sin x を多項式で近似する

目次

sin x のテイラー展開(マクローリン展開)

xx を弧度法で測るとき、すべての実数 xx について

sin⁡x=x−x33!+x55!−x77!+⋯ \sin x=x-\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}-\frac{x^7}{7!}+\cdots

n!n! は 1⋅2⋅3⋯n1\cdot 2\cdot 3\cdots n(階乗)。

この記事の要点

  • lim⁡sin⁡xx=1\lim\dfrac{\sin x}{x}=1 は「xx が小さいとき sin⁡x≒x\sin x\fallingdotseq x」という意味。その誤差が x36\dfrac{x^3}{6} くらいであることが、微分を重ねた不等式で分かる
  • 同じ方法を続けると、sin⁡x\sin x を xx の多項式で表す規則が見える。これがテイラー展開
  • 項を増やすほど、00 から遠いところまで sin⁡x\sin x に重なる

lim⁡sin⁡xx=1\lim\dfrac{\sin x}{x}=1 の証明は、xx が 00 に近いとき sin⁡x\sin x が xx とほぼ同じ値になる、ということを示していました。このコラムでは「ほぼ同じ」のずれを調べ、その先にある大学数学のテイラー展開へ進みます。

高校の問題:sin x と x のずれはどれくらいか

問題

lim⁡x→0x−sin⁡xx3\displaystyle\lim_{x\to 0}\frac{x-\sin x}{x^3} を求めよ。

x→0x\to 0 で分母も分子も 00 に近づきます。x−sin⁡xx-\sin x が x3x^3 と同じ速さで 00 に近づくなら、極限は 00 でない値になるはずです。

微分で不等式をはさんで解く

x>0x>0 とします。次の2つの事実を使います。

  • sin⁡x<x\sin x<x(面積のはさみうちで得た不等式)
  • f′(x)>0f'(x)>0 かつ f(0)=0f(0)=0 なら、x>0x>0 で f(x)>0f(x)>0(ff は増加関数だから)

1. cos⁡x\cos x を下から押さえる

f1(x)=cos⁡x−1+x22f_1(x)=\cos x-1+\dfrac{x^2}{2} とおくと f1(0)=0f_1(0)=0 です。微分すると

f1′(x)=−sin⁡x+x=x−sin⁡x>0 f_1'(x)=-\sin x+x=x-\sin x>0

したがって f1(x)>0f_1(x)>0、つまり cos⁡x>1−x22\cos x>1-\dfrac{x^2}{2} です。

2. sin⁡x\sin x を下から押さえる

f2(x)=sin⁡x−x+x36f_2(x)=\sin x-x+\dfrac{x^3}{6} とおくと f2(0)=0f_2(0)=0 で、

f2′(x)=cos⁡x−1+x22=f1(x)>0 f_2'(x)=\cos x-1+\frac{x^2}{2}=f_1(x)>0

なので f2(x)>0f_2(x)>0、つまり sin⁡x>x−x36\sin x>x-\dfrac{x^3}{6} です。

3. cos⁡x\cos x を上から押さえる

f3(x)=1−x22+x424−cos⁡xf_3(x)=1-\dfrac{x^2}{2}+\dfrac{x^4}{24}-\cos x とおくと f3(0)=0f_3(0)=0 で、

f3′(x)=−x+x36+sin⁡x=f2(x)>0 f_3'(x)=-x+\frac{x^3}{6}+\sin x=f_2(x)>0

なので cos⁡x<1−x22+x424\cos x<1-\dfrac{x^2}{2}+\dfrac{x^4}{24} です。

4. sin⁡x\sin x を上から押さえる

f4(x)=x−x36+x5120−sin⁡xf_4(x)=x-\dfrac{x^3}{6}+\dfrac{x^5}{120}-\sin x とおくと f4(0)=0f_4(0)=0 で、

f4′(x)=1−x22+x424−cos⁡x=f3(x)>0 f_4'(x)=1-\frac{x^2}{2}+\frac{x^4}{24}-\cos x=f_3(x)>0

なので sin⁡x<x−x36+x5120\sin x<x-\dfrac{x^3}{6}+\dfrac{x^5}{120} です。

5. はさみうちの原理を使う

2 と 4 をあわせて、x>0x>0 で

x−x36<sin⁡x<x−x36+x5120 x-\frac{x^3}{6}<\sin x<x-\frac{x^3}{6}+\frac{x^5}{120}

各辺を −1-1 倍して xx を足し、x3x^3 で割ると

16−x2120<x−sin⁡xx3<16 \frac{1}{6}-\frac{x^2}{120}<\frac{x-\sin x}{x^3}<\frac{1}{6}

x→+0x\to +0 で左辺は 16\dfrac{1}{6} に近づくので、lim⁡x→0x−sin⁡xx3=16\displaystyle\lim_{x\to 0}\frac{x-\sin x}{x^3}=\frac{1}{6} です。x−sin⁡xx3\dfrac{x-\sin x}{x^3} は x→−0x\to -0 でも同じ値(xx を −x-x にしても変わらない)なので、極限は 16\dfrac{1}{6} です。

つまり x−sin⁡x≒x36x-\sin x\fallingdotseq\dfrac{x^3}{6}、すなわち sin⁡x≒x−x36\sin x\fallingdotseq x-\dfrac{x^3}{6} という、xx だけの近似より一段よい近似が得られました。

規則が見える:sin x のテイラー展開

上の流れで出てきた式を並べます。

sin⁡x≒x,sin⁡x≒x−x36,sin⁡x≒x−x36+x5120 \sin x\fallingdotseq x,\qquad \sin x\fallingdotseq x-\frac{x^3}{6},\qquad \sin x\fallingdotseq x-\frac{x^3}{6}+\frac{x^5}{120}

分母は 6=3!6=3!、120=5!120=5! で、符号は +,−,++,-,+ と交互に変わります。このまま項を増やしたものが、冒頭の式です。

項を増やすと、原点から遠いところまで sin x と重なる

数値でも確かめます。x=1x=1 のとき sin⁡1=0.841471⋯\sin 1=0.841471\cdots で、

近似式値sin⁡1\sin 1 とのずれ
xx110.15850.1585
x−x33!x-\dfrac{x^3}{3!}0.8333⋯0.8333\cdots0.00810.0081
 +x55!+\dfrac{x^5}{5!}0.84167⋯0.84167\cdots0.000200.00020
 −x77!-\dfrac{x^7}{7!}0.841468⋯0.841468\cdots0.00000270.0000027

項を1つ足すごとに、ずれが大きく減ります。

係数はどう決まるのか

高校の不等式では、式を「当たりをつけて」書きました。大学では、係数を機械的に決めます。f(x)=c0+c1x+c2x2+c3x3+⋯f(x)=c_0+c_1x+c_2x^2+c_3x^3+\cdots と表せたとして、x=0x=0 を代入すると f(0)=c0f(0)=c_0。微分してから x=0x=0 を代入すると f′(0)=c1f'(0)=c_1。もう一度微分すると f′′(0)=2c2f''(0)=2c_2、さらに微分して f′′′(0)=3⋅2⋅c3f'''(0)=3\cdot 2\cdot c_3 となり、一般に

cn=f(n)(0)n! c_n=\frac{f^{(n)}(0)}{n!}

です。f(n)f^{(n)} は nn 回微分した関数。f(x)=sin⁡xf(x)=\sin x なら、(sin⁡x)′=cos⁡x(\sin x)'=\cos x を繰り返して、x=0x=0 での値は 0, 1, 0, −1, 0, 1, ⋯0,\ 1,\ 0,\ -1,\ 0,\ 1,\ \cdots の順になります。偶数番目が 00、奇数番目が ±1\pm 1 で、x33!\dfrac{x^3}{3!} の符号が −- になる理由も、これで分かります。

その先:大学数学へ

x=0x=0 の近くだけでなく、x=ax=a のまわりで同じことをした

f(x)=f(a)+f′(a)(x−a)+f′′(a)2!(x−a)2+⋯ f(x)=f(a)+f'(a)(x-a)+\frac{f''(a)}{2!}(x-a)^2+\cdots

をテイラー展開、a=0a=0 の場合をマクローリン展開と呼びます。1715年にブルック・テイラー(イギリス)が一般の式を発表し、1742年にコリン・マクローリン(スコットランド)が著書でその特別な場合を詳しく扱いました。

  • べき級数:xx の累乗を無限に足した式。ex=1+x+x22!+x33!+⋯e^x=1+x+\dfrac{x^2}{2!}+\dfrac{x^3}{3!}+\cdots や cos⁡x=1−x22!+x44!−⋯\cos x=1-\dfrac{x^2}{2!}+\dfrac{x^4}{4!}-\cdots も展開できます。eiθe^{i\theta} の項を実部と虚部に分けると cos⁡θ+isin⁡θ\cos\theta+i\sin\theta になり、オイラーの公式も確かめられます。
  • 収束:無限に足した結果が決まった値に近づくこと。sin⁡x\sin x は全ての xx で収束しますが、11−x=1+x+x2+⋯\dfrac{1}{1-x}=1+x+x^2+\cdots は ∣x∣<1|x|<1 のときだけです。
  • ロピタルの定理・ランダウの記号:問題の極限は、sin⁡x=x−x36+(x5 以上の項)\sin x=x-\dfrac{x^3}{6}+(x^5\text{ 以上の項}) を代入すれば一行で出ます。大学の極限計算の基本道具です。
  • 物理:単振り子の運動方程式で sin⁡θ≒θ\sin\theta\fallingdotseq\theta とするのは、テイラー展開の第1項だけを使うことです。θ=0.2 rad\theta=0.2\,\mathrm{rad}(約 11∘11^\circ)でも誤差は約 0.7%0.7\% です(単振動)。

注意

sin⁡x≒x−x36\sin x\fallingdotseq x-\dfrac{x^3}{6} が使えるのは、xx が 00 に近いときだけです。図のように、xx が大きくなると多項式は sin⁡x\sin x から離れていきます。また、高校では「無限に足す」ことの厳密な扱いを学びません。このコラムの展開は、考え方の紹介です。

この記事のまとめ

  • lim⁡x→0x−sin⁡xx3=16\displaystyle\lim_{x\to 0}\frac{x-\sin x}{x^3}=\frac{1}{6} は、f′>0f'>0 と f(0)=0f(0)=0 を繰り返す不等式のはさみうちで求まる。
  • その流れを続けると sin⁡x=x−x33!+x55!−⋯\sin x=x-\dfrac{x^3}{3!}+\dfrac{x^5}{5!}-\cdots が見える。係数は f(n)(0)n!\dfrac{f^{(n)}(0)}{n!}。
  • テイラー展開は、関数を多項式で表す大学数学の基本で、exe^x・オイラーの公式・物理の近似につながる。