tan1°は有理数か(京大2006年):背理法と加法定理で解く

数学2B三角関数入試の背景 更新
目次

入試問題(2006年度 京都大学 後期 理系 第6問)

tan⁡1∘\tan 1^\circ は有理数か。

この記事の要点

  • 答えは「有理数ではない」。有理数だと仮定して矛盾を導く(背理法)
  • 加法定理を使うと、tan⁡1∘\tan 1^\circ から tan⁡2∘, tan⁡3∘, ⋯\tan 2^\circ,\ \tan 3^\circ,\ \cdots が四則演算だけで作れる
  • 有理数どうしの四則演算は有理数なので、tan⁡60∘=3\tan 60^\circ=\sqrt{3} まで有理数になってしまい矛盾する

円周率が3.05より大きいことの証明(東大2003年)と並んで、問題文が1行しかない入試問題として知られています。何を示せばよいかから自分で決める必要があり、数学IIの加法定理と、数学Iの「有理数・無理数」の知識がつながる問題です。

この問題の何が面白いか

tan⁡1∘\tan 1^\circ の値は、電卓を使っても 0.01745⋯0.01745\cdots としか分かりません。小数がどこまで続くかを調べても、有理数かどうかは決まりません。

そこで、値を求めずに性質だけで判断する方法を考えます。手がかりは2つです。

  • 有理数どうしの和・差・積・商(0 で割る場合を除く)は、また有理数になる
  • tan⁡1∘\tan 1^\circ から、加法定理で tan⁡2∘, tan⁡3∘, ⋯\tan 2^\circ,\ \tan 3^\circ,\ \cdots を作れる

解き方:背理法と加法定理

tan⁡1∘\tan 1^\circ が有理数であると仮定します。加法定理

tan⁡(n+1)∘=tan⁡n∘+tan⁡1∘1−tan⁡n∘tan⁡1∘ \tan(n+1)^\circ=\frac{\tan n^\circ+\tan 1^\circ}{1-\tan n^\circ\tan 1^\circ}

を使います。tan⁡n∘\tan n^\circ が有理数なら、右辺は有理数どうしの四則演算なので、tan⁡(n+1)∘\tan(n+1)^\circ も有理数です(n≦59n\le 59 では tan⁡n∘tan⁡1∘<1\tan n^\circ\tan 1^\circ<1 なので、分母は 00 になりません)。

「有理数なら次も有理数」が60回つながると矛盾にたどり着く

これを n=1, 2, ⋯ , 59n=1,\ 2,\ \cdots,\ 59 と順にくり返すと、tan⁡60∘=3\tan 60^\circ=\sqrt{3} も有理数 ということになります。

ところが 3\sqrt{3} は無理数です。念のため確かめておきます。3=mk\sqrt{3}=\dfrac{m}{k}(m, km,\ k は互いに素な自然数)と表せたとすると、両辺を2乗して

m2=3k2 m^2=3k^2

右辺は 33 の倍数なので m2m^2 も 33 の倍数で、mm が 33 の倍数になります。m=3m′m=3m' とおくと 9m′2=3k29m'^2=3k^2 より k2=3m′2k^2=3m'^2 となり、kk も 33 の倍数です。これは m, km,\ k が互いに素であることに反します。

よって最初の仮定が誤りで、tan⁡1∘\tan 1^\circ は有理数ではない ことが示されました。

注意

どの角度で止めるかに注意します。tan⁡30∘=13\tan 30^\circ=\dfrac{1}{\sqrt{3}} や tan⁡60∘=3\tan 60^\circ=\sqrt{3} は無理数なので矛盾になりますが、tan⁡45∘=1\tan 45^\circ=1 は有理数なので、45∘45^\circ で止めても矛盾になりません。無理数とはっきり分かる値にたどり着くまで進めるのがポイントです。

背景:有理数の「閉じている」性質と、ニーベンの定理

この解き方の核心は、有理数の集まりが四則演算で閉じている(計算しても外に出ない)ことです。大学の数学では、このような集まりを**体(たい)**と呼び、方程式の理論などで重要な役割を果たします。

また、角度が「度」で表して有理数のとき、tan⁡\tan の値が有理数になるのは 00 と ±1\pm 1 の場合だけであることが知られています(ニーベンの定理とその仲間の結果)。たとえば tan⁡0∘=0\tan 0^\circ=0、tan⁡45∘=1\tan 45^\circ=1 がその例で、tan⁡1∘\tan 1^\circ はもちろん、tan⁡2∘\tan 2^\circ も tan⁡10∘\tan 10^\circ も有理数ではありません。京大の問題は、この大きな結果のごく一部を、高校の範囲で確かめさせる問題だといえます。

この問題から学べること

  • 値が分からなくても性質で判断できる:計算できない数は、仮定して矛盾を探す
  • 「閉じている」性質を使う:有理数・整数などの集まりが、どの計算で外に出ないかを意識する
  • 矛盾の相手を選ぶ:3\sqrt{3} のように「無理数と証明できる値」に向かって進める

この記事のまとめ

  • tan⁡1∘\tan 1^\circ が有理数と仮定すると、加法定理で tan⁡60∘=3\tan 60^\circ=\sqrt{3} まで有理数になり矛盾する
  • 鍵は「有理数どうしの四則演算は有理数」という性質
  • 背景には、有理数の角度で tan⁡\tan が有理数になるのは 0, ±10,\ \pm 1 だけというニーベンの定理がある

参考にした資料

  • 京都大学 2006年度 後期日程 入学試験問題(数学・理系 第6問)
  • 「Niven’s theorem」Wikipedia(英語版)。原典は Ivan Niven, Irrational Numbers, Mathematical Association of America, 1956